2024年問題を経て、2025年の倉庫業界はどう変わるのか?(コラム記事)

2024年、物流業界は大きな転換点を迎えました。「2024年問題」として知られる労働時間規制の強化により、トラックドライバーの時間外労働が制限され、物流の効率低下やコスト上昇が懸念されています。この影響は運送業だけでなく、倉庫業界にも深刻な影響を及ぼすことが避けられません。
特に、荷待ち時間の増加・作業負担の増大・人手不足の深刻化など、倉庫運営における課題が顕在化しています。加えて、物流DX(デジタルトランスフォーメーション)の加速や、自動化・省人化の推進が急務となる中で、倉庫業界はこれまでの運営スタイルを見直さざるを得ない状況にあります。
では、2024年問題を経て2025年の倉庫業界はどのように変化するのか?
本記事では、2024年問題の影響を整理し、倉庫業界の今後の課題と展望について筆者目線で解説します。
CONTENTS
▸2024年問題とは?
▸2024年問題に取り組む上で倉庫事業者が受ける影響
▸倉庫事業者ができる2024年問題の対策
▸2025年倉庫業界の展望と課題
▸2025年に向けた倉庫業界の課題と展望(まとめ)
■ 2024年問題とは?—物流業界の分岐点

2024年、物流業界は大きな転換点を迎える。それが、いわゆる「2024年問題」だ。
これは、運送ドライバーの時間外労働の上限を年間960時間に制限する法規制が施行されることで生じる様々な影響の総称である。
これまで、物流業界は低賃金・長時間労働に支えられた構造を維持してきた。しかし、労働環境の見直しとドライバーの負担軽減を目的としたこの規制により、次のような課題が浮かび上がる。
●物流企業の売上・利益の減少—運送回数の制限が生じ、収益の縮小が懸念される。
●必要な物資が届かなくなるリスク—輸送能力の低下が、サプライチェーン全体の遅
延を招く可能性がある。
●ドライバーの収入減少—時間外労働の抑制により、現場の収入減が避けられない。
●運賃の値上がり—供給量の減少により、運賃の上昇が予測される。
これまで業界を支えてきたドライバー不足の問題は、いよいよ深刻さを増していく。
人手不足の中で規制が厳しくなることで、結果として物流の効率が低下し、輸送コストが跳ね上がる可能性がある。
これは単なる業界の問題にとどまらず、最終的には消費者の負担増として跳ね返ってくるだろう。
さらに、企業がこの規制に違反した場合、「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」という厳しいペナルティが科される。
この背景には、国が労働環境の是正に本腰を入れている姿勢がうかがえる。すでに人材不足に悩む物流業界にとって、法規制への適応は喫緊の課題であり、対応を誤れば事業存続すら危うくなる局面を迎えている。
「この規制が、物流の未来を変えるきっかけになるのか、それとも危機の引き金となるのか」
2024年問題は、今後の物流業界のあり方を根底から問う分岐点となると考える・・・
■ 2024年問題に取り組む上で倉庫事業者が受ける影響—矛盾する現実との闘い

2024年問題は運送業界だけの問題ではない。
その波は、倉庫業界にも確実に押し寄せている。ドライバーの労働時間規制が強化されることで、物流全体の流れを変えざるを得ない状況が生まれる。その中で、倉庫業者にはどのような影響が及ぶのか。
● 荷待ち問題の悪化と、苦情・勧告の増加
「荷待ち時間」は、長年にわたり物流業界の構造的課題として存在してきた。トラックが倉庫に到着しても、積み下ろし作業が進まず、長時間待機を余儀なくされる。これがドライバーの労働時間を圧迫し、長時間労働の一因となっている。
こうした状況を改善するため、国は「荷主勧告制度」を導入。
これは、運送事業者の法令違反に荷主が関与していると判断された場合、国土交通大臣が是正措置を求める制度だ。
違反が認められれば、企業名が公表されるリスクもある。
だが、ここで問題なのは倉庫事業者の立場だ。荷主と運送事業者の間に立つ倉庫事業者は、荷待ち問題の直接的な要因ではない場合もある。それにもかかわらず、「倉庫の対応が悪いせいで荷待ちが長引いた」と責任を押し付けられる可能性が高まる・・・
具体的に、以下のような要因が荷待ち時間の長期化を招く。
▸バース予約時間の調整不足(適切な時間配分ができていない)
▸非効率な庫内レイアウト(積み下ろし動線が整理されていない)
▸作業員不足(出荷・受け入れ対応の人手が足りない)
▸受入時間の伝達ミス(運送会社への情報共有が不十分)
このような課題が改善されなければ、ドライバーからの苦情が相次ぎ、さらには国の勧告対象となる可能性もある。倉庫事業者は、自社の問題でない部分に対する責任を問われかねない厳しい立場に立たされることになる。
● 倉庫作業員の負担増加と、人材確保の必要性
倉庫業界にはもう一つの大きな試練が待ち構えている。それが「荷役作業の分担」の変化だ。
これまで、トラックドライバーが自ら荷物を積み下ろすケースは珍しくなかった。
しかし、2024年問題を受けて、ドライバーの労働時間が厳格に管理されることとなり、本来倉庫作業員が担うべき荷役作業をドライバーが行うことは難しくなる。
その結果、倉庫側の作業負担が一気に増加する可能性が高い。
▸作業負担の増大(今まで以上に手間と時間がかかる)
▸人手不足の加速(新たな作業員の確保が必要)
▸労働環境の改善が急務に(負担が増えれば離職リスクも高まる)
特に、中小規模の倉庫では人員の余裕がないため、追加の作業負担に対応する余地が少ない。それでも、現場の作業効率を維持しなければ、倉庫全体の運用に支障が出る。
倉庫事業者は今後、単に「作業員を増やす」だけでなく、業務の効率化を進めなければならない。デジタル技術を活用し、トラック予約システムや自動化技術の導入を加速させることが、企業存続のカギとなるだろう。
またこのような「2024年問題」は、倉庫業界にとっても試練の年となる。規制が進む中で、倉庫事業者は業務の効率化と労働環境の見直しを急がなければならない。
果たして、現場はこの変化に適応できるのか
——業界の対応力が、今まさに問われているだろう——
■ 倉庫事業者ができる2024年問題の対策—「待ったなし」の改革

2024年問題は、物流業界の働き方を大きく変えようとしている。倉庫業界においても、これまでの「現場頼み」のやり方を続けることはもはや難しくなってきた。今、倉庫事業者はどのような対策を講じるべきなのか。求められるのは、単なる対応策ではなく、抜本的な改革だ。
◗運賃や配送方法の見直し—物流の「適正価格」は実現するのか?
物流倉庫は、多様な荷主と取引を行っているが、運賃の適正化は依然として難しい問題だ。国土交通省の調査によると、「適正な運賃を収受できている」と回答した運送事業者はわずか20%。これは、物流コストの適正化がまだまだ道半ばであることを示している。
さらに、再配達の削減も倉庫業界にとって重要な課題となる。例えば、宅配便ではポスト投函型の小型配送を強化することで、無駄な配送回数を削減できる。倉庫業界においても、出荷スケジュールの見直しや荷姿の最適化が求められるだろう。
● 出荷作業の自動化—「人手不足」に頼らない仕組みづくり
2024年問題を機に、「人手を増やす」のではなく「作業そのものを減らす」方向へのシフトが加速している。その鍵となるのが、倉庫作業の自動化だ。
◗期待されるメリット
▸生産性向上—作業効率が向上し、人的ミスも減少
▸省人化・省力化—労働力不足の解消につながる
▸ミス削減—人的作業に依存しないことで、精度が向上
▸労働環境の改善—過酷な肉体労働の負担を軽減
特に、仕分けや出荷作業の自動化は、倉庫の稼働効率を向上させる要となる。
AGV(自動搬送ロボット)やAIを活用したピッキングシステムの導入が、業界の未来を左右するだろう。
● 荷主勧告制度の周知徹底—「知らなかった」は通用しない
2024年問題と密接に関わるのが、「荷主勧告制度」だ。これは、運送事業者の法令違反に荷主が関与していた場合、国土交通大臣が勧告を行い、企業名が公表される可能性がある制度だ。
しかし、驚くべきことに、国土交通省の調査では、「荷主勧告制度の詳しい内容を知っている」と回答した運送事業者は20%、荷主はわずか3.2%に過ぎなかった。
この結果は、制度の存在が十分に認知されていないことを示している。倉庫事業者としても、取引先(荷主)に対して制度を周知し、違反のリスクを共有することが不可欠だ。
● 荷待ち時間削減—「待たせる物流」からの脱却
荷待ち時間の削減は、2024年問題を乗り越えるための最優先課題のひとつだ。現場での待機時間を減らすためには、以下のような施策が有効とされている。
▸トラック予約システムの導入—到着時刻を事前調整し、待機時間を最小限に
▸納品スケジュールの最適化—ピーク時間の分散化で混雑を解消
▸作業効率の向上—バースの回転率を上げ、処理能力を向上させる
「待機が当たり前」の物流から、「スムーズな受け入れ」ができる物流へ。
この転換を図らなければ、倉庫業界は2024年問題の影響をまともに受けることになるだろう。
● 荷役作業の見直し—ドライバーの負担軽減は倉庫業の課題
ドライバーの労働時間規制により、倉庫作業員の負担が増加することは避けられない。そのため、倉庫事業者は「荷役作業の分担」を抜本的に見直す必要がある。
▸専任作業員を配置し、ドライバーの作業負担を軽減
▸パレット納品を導入し、作業時間を短縮
▸積み下ろしの標準化を進め、作業の効率化を図る
倉庫作業員の負担が増加することは避けられないが、業務の効率化次第では大きなコスト増を回避できる可能性がある。
● 2024年問題への理解促進—「業界全体での取り組み」がカギ
物流業界全体が変革期を迎える中、倉庫業界においても2024年問題の理解を深めることが不可欠だ。
国土交通省の調査では、
「2024年問題について十分に理解している」と回答した荷主は12%、小売業・飲食業に至っては0%
という衝撃的な結果が出ている。
物流の最前線で働く倉庫事業者こそが、業界の変化を荷主や取引先に伝え、共通認識を持つ努力をしなければならない。
● 輸送網の集約やモーダルシフトの推進—「持続可能な物流」へ向けて
物流業界の課題に対応するため、国は「物流総合効率化法」を施行し、輸送効率の改善を促している。その一環として、「モーダルシフト(鉄道や船舶を活用した輸送)」の推進が求められている。
▸長距離輸送は鉄道・船舶へシフト—CO2排出削減とドライバー負担軽減
▸輸送網の集約化—共同配送の推進による効率化
この動きに倉庫業界も対応する必要があり、物流拠点の見直しや新たな連携体制の構築が求められている。
●「2024年問題」は物流業界のターニングポイント
2024年問題は、単なる法規制の問題ではない。これは、物流業界が旧来の仕組みから脱却し、持続可能な形に進化するための試練でもある。
倉庫事業者が取るべき対策は、単なる短期的な対応策ではなく、未来を見据えた戦略的な変革である。2024年問題を「危機」としてではなく、「改革のチャンス」として捉えられるか
◇筆者個人としては、一企業だけではできないことも倉庫業界・運送業界等が協力してこの局面に立ち向かっていくことで答えが出るのではないかと考えられる・・・
■ 2025年倉庫業界の展望と課題—「変革」か、それとも「淘汰」か?

2024年問題を経た倉庫業界は、2025年に新たな局面を迎える。物流業界全体が変革を迫られる中、倉庫事業者にとっても「これまで通りの運営」では立ち行かなくなる時代が本格化するだろう。
2025年の倉庫業界を取り巻く環境は、以下の3つのテーマを軸に動いていくと筆者は考えている。
●労働力不足のさらなる深刻化—「人が足りない」では済まされない
2024年問題の影響を受け、トラックドライバーの労働時間が制限されることで配送効率が下がり、物流全体の負担が倉庫にのしかかる。しかし、倉庫業界もまた人手不足に悩まされている。
特に、作業員の高齢化が進む中で、若手の確保が難しくなっているのが実情だ。
▸採用難の継続—給与の低さや体力的負担の大きさがネックとなり、若手人材の定着が難しい
▸外国人労働者への依存度の増加—一部の倉庫ではすでに外国人技能実習生が欠かせない戦力となっている
▸職場環境の改善が必須—長時間労働を前提としない働き方改革が急務
単なる人材確保の問題ではなく、業務そのもののあり方を見直さなければ、労働力不足は解決しない。
●自動化技術の導入加速—人の代わりを「機械」が担う時代へ
人手不足を補うための手段として、倉庫業界では「自動化技術」の導入が急速に進むと予測される。特に注目されるのは以下の技術だ。
▸AGV(無人搬送車)の導入—倉庫内の荷物運搬を自動化し、作業員の負担を軽減
▸AIピッキングシステム—ロボットアームが商品を自動で選別し、ピッキング作業を効率化
▸自動倉庫システム—在庫管理と出荷作業を統合し、最適なオペレーションを実現
これらの技術が進化することで、倉庫業界は「人が動かす現場」から「機械と人が共存する現場」へと変貌していくだろう。
しかし、ここで重要なのは、すべての倉庫が一律に自動化を導入できるわけではないという点だ。
▸中小企業はコストの壁に直面—初期投資が高額なため、導入に踏み切れない倉庫も多い
▸デジタル人材の不足—自動化を進めたくても、機械を扱える人材がいない
▸部分的な導入で様子見—一部の業務のみ自動化し、段階的に導入を進める企業も増える
2025年は、自動化が加速する企業とそうでない企業の格差が広がる年になる可能性が高いと考えられる・・・・・
●物流コストの適正化—「価格競争からの脱却」は実現するのか?
昨今では小麦価格の高騰や令和の米騒動などが記憶に新しいがこういった生産者側の立場を小売業者は考えられておらず過度な価格競争により適正なコストが推し量れていなかった。
物流業界も同様で、過度な価格競争により、適正なコストを確保できない状況が続いてきた。しかし、2024年問題を機に、業界全体で「適正価格」の見直しが始まっている。
▸運賃の値上げは避けられない—輸送量の減少に伴い、各社が運賃の引き上げを進める
▸新たな収益モデルの模索—付加価値サービス(在庫管理、流通加工など)で収益を確保する動きが強まる
とはいえ、すべての企業がすぐに価格を適正化できるわけではない。特に、価格交渉力の弱い中小倉庫業者にとっては、「適正価格の実現」は依然として大きな課題となる。
2025年、倉庫業界は「変革」か、それとも「淘汰」か?
2025年以降、倉庫業界は大きく二極化する可能性が高い。
▸変革に成功する企業:自動化を進め、人手不足に対応し、適正価格を確保できる企業
▸淘汰される企業:旧来のやり方から抜け出せず、人手不足とコスト増に対応できない企業
2024年問題は、単なる一過性の課題ではなく、倉庫業界の「新たなスタンダード」を生み出す起点となる。その変化に適応できるかどうかが、今後の倉庫業界の命運を分けることになるだろう。
「変化を恐れずに前進できるか、それとも現状維持に甘んじるか」—2025年の倉庫業界にとって、決断の時はもう来ているのかもしれない。
■ 2025年に向けた倉庫業界の課題と展望—持続可能な物流へ(まとめ)

2024年問題を経て、倉庫業界は今、かつてないほどの変革を迫られている。
ドライバーの労働時間規制がもたらす影響は単なる運送の問題にとどまらず、倉庫内のオペレーションやコスト構造、業界全体の在り方を根底から問い直すものとなる。
労働力不足の深刻化、自動化の進展、物流コストの適正化という三大テーマは、今後の倉庫業界を左右する重要な要素となる。
特に、人材確保に苦しむ中小倉庫業者は、業務効率化やデジタル技術の活用を通じて競争力を維持する必要がある。
一方で、すべての企業が同じスピードで変革できるわけではない。自動化投資を進められる大手と、資金や人材の制約に直面する中小企業の間で格差が広がることも予測される。こうした状況下では、企業単独の努力だけでなく、業界全体での連携や行政の支援策が鍵を握る。
2025年以降、倉庫業界は「変革を果たす企業」と「従来の仕組みに固執する企業」との間で二極化が進む可能性が高い。
持続可能な物流システムを確立するためには、物流業界全体での協力体制を築き、共に成長するための取り組みを強化することが不可欠である。
筆者は倉庫業界がこれから迎えるのは、単なる「変化」ではなく、持続可能な物流の未来を形作るための重要な過渡期であると考えている。
2024年問題を一つの通過点とし、未来へ向けた戦略的な舵取りが求められているのかもしれない。
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